BLOG 2026.08.17
見積作成に数時間かかっていた会社が、単価データベースを作るまで
見積は、社長の頭の中にありました
ある建設会社では、見積書を社長が書いていました。1件あたり数時間。数字を拾い、単価を決め、諸経費を掛け、見直す。その繰り返しです。
問題は時間ではありませんでした。その数時間が、社長の頭の中でしか再現できないことです。社長が現場に出ている日は見積が止まる。社長が思い出せなければ項目が抜ける。誰かに引き継ごうにも、引き継ぐ先が「一人の記憶」なので渡しようがない。
建設業でよく言われる「属人化」です。そして厄介なのは、当の本人が一番困っていないことでした。本人にとっては、いつもどおり仕事をしているだけですから。
聞き方ではなく、持っていく材料を変えた
最初、私は社長に聞こうとしました。「どうやって単価を決めているんですか」と。
これはうまくいきませんでした。長年やってきた人は、手順を言葉にできません。「まあ、だいたいこのくらい」で正確に出せてしまうからです。悪気ではなく、本当に説明できないのです。
そこで順番を変えました。聞くのをやめたのではありません。聞く前に、こちらで材料を作ることにしたのです。
過去に出した見積そのものを全部掘り出す。手順が本人の口から出てこないなら、実際に出した数字のほうから取り出せばいい。あとから振り返ると、間違っていたのは聞いたことではなく、何も持たずに聞きに行ったことでした。「どうやって単価を決めているんですか」という問いは、思い出す・並べる・言葉にするの三つを、まとめて相手に渡しています。渡し方が雑でした。
社内で使っている見積管理サービスから、過去の見積を取り出します。エクスポート機能がなかったので、画面の裏側で動いているAPIを直接叩いて取りました。結果、見積279件・明細3,858行が手元に集まりました。このうち原価まで記録されていたのは1,654行です。
この作業自体はAIにやらせました。私が出した指示は「見積管理サービスから明細を全部取ってきて」の一行です。
3,858行を並べて分かったこと
集めた明細を並べると、社長の見積の癖が見えてきました。
同じ「外壁塗装」でも、書き方が案件ごとに違う。単位が「㎡」だったり「m2」だったり。同じような工事なのに、拾っている項目の数が違う。
つまり、数時間かかっていた理由は、毎回ゼロから思い出していたからでした。作業が遅いのではありません。手順が本人の外に置かれていなかったのです。
ここから、37カテゴリ・654の工事項目に整理し直しました。これが、いま使っている見積システムの土台です。(その後も現場に合わせて足しており、2026年8月時点では41カテゴリ・717項目になっています。)単価はAIに決めさせていません。AIがやったのは、過去の実績を並べて整理するところまでです。単価は現場と交渉と相場で決まるもので、AIが推測してよい数字ではありません。
うまくいかなかったこと
正直に書きます。単価の自動反映は失敗しました。
過去の明細から単価マスタを自動更新しようとしたのですが、名前が似ているだけの別工事を大量に取り違えました。「外壁塗装」と「外壁塗装(下地補修共)」を同じものとして扱ってしまう、という類です。
建設の見積では、この取り違えが致命的です。金額が合っていても、含まれる工事が違えば、後で必ず揉めます。
結局、自動マッチングは禁止にしました。いまは人が確認してから登録します。AIに任せる範囲を、ここで一段狭めています。
もう一つ、社内で「使われなかった」ものもあります。詳しくは別の記事で書きますが、画面を作れば使われるわけではありませんでした。
いま起きていること
見積の作成は、カテゴリを選び、工事内容を選び、質問に答える形になりました。諸経費・法定福利費・消費税は自動で乗ります。
時間がどれだけ減ったかは、まだ正確に測れていません。 全案件をこの仕組みで作っているわけではなく、比較できる母数が足りないからです。ここは数字が出てから改めて書きます。
ただ、確実に変わったことが一つあります。社長が現場に出ていても、見積が止まらなくなりました。 手順が一人の頭の外に出たからです。
明日からできること
AIも見積システムも要りません。最初にやるべきことは一つです。
過去1年分の見積を、明細レベルで並べてください。
Excelでも紙でもかまいません。並べると、案件ごとのブレが見えます。それが「頭の中にしかない手順」の正体です。
この「並べて整理する」ところは、AIに任せられます。 先に書いたとおり、279件を集めて並べるのに、こちらが出した指示は一行だけでした。人の仕事は、並んだものを読んで、何を聞くかを決めるところからです。
そのうえで、本人に聞いてください。順番はこちらが先です。 誰よりも材料を整理してから、要点だけを聞く。手ぶらで行くと、相手は答えようがありません。
そこまで分かってから、はじめて仕組みの話になります。順番を逆にすると、たいてい使われない画面ができあがります。
株式会社MAPACT(埼玉県春日部市)
中小企業のAI導入を支援しています。やっていること
← 記事の一覧へもどる