BLOG 2026.09.03
国が、AIに任せる現場作業を8つ名指ししました
国土交通省が7月31日、「建設分野におけるフィジカルAI戦略」(仮称)のたたき台を公表しました。7ページの、まだ固まっていない資料です。
読んでいて手が止まったのは、最後のページでした。当面、重点的に取り組む対象として、8つの作業が名指しされています。そしてその8つには、書類仕事がひとつも入っていません。全部、現場で体を動かす作業です。
ここ最近、建設業向けとして発表されてきたAIは、写真台帳の下書き、現地調査シートの下書き、議事録、積算の拾いといった、事務所の机の上のものが目立ちました。今回名指しされたのは、そこではありません。掘る、運ぶ、結ぶ、組む、刈る、除ける。現場そのものです。
「フィジカルAI」とは何か
耳慣れない言葉なので、たたき台に書いてある定義をそのまま引きます。「センサ等を通じて物理環境を認識し、AIが推論・判断を行い、その結果に基づいて機械・ロボット等が物理空間で行動するシステム」。
かみ砕くと、こうです。これまでのAIは、文章や写真といったデータを受け取って、文章や判定を返すものでした。入口も出口も画面の中です。フィジカルAIは、出口が画面の外にあります。カメラやセンサーで周りを見て、どうするか決めて、機械が実際に動く。自動運転や倉庫の搬送ロボットが、すでにその形になっています。
国は日本成長戦略やAIロボティクス戦略のなかで、この技術を社会に入れていく対象分野の一つに建設・土木を挙げています。今回のたたき台は、それを受けて国土交通省が河川・道路等の分野で出した中間とりまとめです。
名指しされた8つ
たたき台が挙げているのは、次の8つです(かっこの中は資料に書かれている例)。
土木施工
1. 機械施工(土工等:掘削、運搬、敷き均し、積込み等)
2. 現場の人力作業(鉄筋:配筋・結束・圧接等、型枠:組立・解体等、現場補助等)
3. 現場内小運搬(場内運搬)
維持管理
4. 構造物点検(道路、河川等構造物等)
5. 巡視・点検(河川巡視、道路巡視等)
6. 除草、除雪、清掃(車両系機械、人力作業)
災害対応
7. 災害調査(広域調査、詳細調査)
8. 災害復旧(土砂撤去、整地、運搬、軽作業、道路啓開等)
あなたの会社では、どの作業にあたるか
大規模工事の話に見えるかもしれませんが、並んでいるのは特別な作業ではありません。
2番の「現場の人力作業」は、鉄筋を組んで結束線で縛る作業、型枠を建てて解体する作業、そして「現場補助」です。地場の会社で、若い職人や応援が一日中やっていることが、そのまま書かれています。
3番の「現場内小運搬」は、資材を降ろした場所から使う場所まで運ぶ、あの往復です。工程表には載らないのに、人手と時間を確実に食っている作業です。
5番の「巡視・点検」は、決まったルートを走って、異常がないかを見て記録して帰ってくる仕事です。見つかることが少ないほど、人を出しているのがもったいなく感じる仕事でもあります。
6番の「除草、除雪、清掃」は、市町村から出る維持の仕事です。年間で受けている会社なら、人を集めるのがいちばん大変な種類の仕事だと思います。
心当たりが3つ以上あるなら、この資料はよその話ではありません。
中小企業が、名指しで書かれています
こういう資料は、大手ゼネコンの大規模現場を前提にしていることが多いのですが、今回はそうではありませんでした。基本的な考え方の項に、「建設業の大部分を中小企業が担うことを踏まえ、大規模プロジェクトに限らず地域・生活を支える現場への普及を推進し、市場拡大にも寄与」と書かれています。
人材育成の項にも、「大手から中小建設業者まで活用できる人材育成の制度構築が必要」とあります。
なぜ国がそこまで急ぐのかは、2年前の目標を見ると分かります。国土交通省は2024年4月の「i-Construction 2.0」で、最低でも2040年度までに、2023年度と比べて建設現場で3割の省人化を目指すと決めています。
2023年度と比べた目標です。生産性でいえば1.5倍以上にあたります(i-Construction 2.0、2024年4月)
3割というのは、10人でやっていた現場を7人で回すということです。人が減るのを待って達成する数字ではなく、減ったうえで同じ量をこなすための数字です。事務所の書類を速くするだけでは、この幅は埋まりません。だから現場の作業が対象になります。
「人の代わり」とは書かれていません
ここは読み違えやすいところなので、書いてあることをそのまま挙げます。
たたき台は、フィジカルAIを「作業負担の軽減を図るなど、現場で働く人を支援し、その能力を拡張するものとして活用」すると位置づけています。さらに「導入そのものを目的とするのではなく、建設現場が抱える課題を解決するための手段の一つ」だとも書いています。
もうひとつ、見落とせない一文があります。「現状作業の代替にとどまらず、人の役割を再定義しつつ、施工方法・設計思想も含めた業務プロセス全体を見直し」。
いまの手順のまま人の手をロボットに差し替えるのではなく、手順のほうも変える前提だ、ということです。たとえば場内の小運搬をロボットに任せるなら、ロボットが通れる幅と経路が要ります。すると変わるのは運ぶ作業だけでなく、資材をどこに降ろすか、どう積むか、という前後の段取りになります。導入を検討する側から見ると、機械を1台入れる話ではなく、現場の組み立て方を見直す話になります。
いまはどの段階か
正直に書くと、まだ何も始まっていません。
この資料は「(仮称)たたき台」で、確定した施策ではありません。資料自身も、自分のことを「中間とりまとめ」と書いています。国土交通省は2026年2月18日に「建設分野のフィジカルAI活用推進WG」を設置しており、検討はいまその途中にあります。開発の進め方も、産学官のコンソーシアムをつくり、建設機械と人力作業でプロジェクトチームを分けて進める、という形が示されている段階です。参加者については「具体的な参加者は公募にて決定」「メンバーは公募も活用」と書かれています。
時間の見通しも書かれています。「短期的(2030年頃を想定)な成果を求める」。約4年後です。ロボットが現場に来る話としては近く、会社の設備投資の判断としては、まだ一度も見積を取る段階ではありません。
自分の会社の作業表と突き合わせる
この資料を読んで、いま自分の会社でできることが一つあります。8つのリストを見て、次を数えてみることです。
- 8つのうち、自社が毎週やっているものはいくつあるか
- そのうち一番人手を食っている作業に、去年一年で延べ何人日かけたか
- その作業を、いま誰がやっているか(自社の職人か、応援か、下請けか)
数えると、この先の4年でどこから話が来るかが見当つきます。8つのうち多くが当てはまり、しかも人を集めるのに毎年苦労している作業なら、コンソーシアムの公募が出たときに手を挙げる側になる可能性があります。逆に、当てはまるのが1つか2つで、その作業を協力会社に任せているのなら、当面は様子を見ていて構いません。
国が名指ししたのは技術ではなく、作業です。読む側が自分の現場と突き合わせられる形で出ている、という点が、これまでの資料と違うところでした。
出典
株式会社MAPACT(埼玉県春日部市)
中小企業のAI導入を支援しています。やっていること
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